
主人公の白石誓ことチカは、この作品でもフランスのチームに所属して、世界各地を転戦しています。前作となる「エデン」では敵チームの新鋭として登場したニコラが、今はチカと同じチームで戦っています。ロードレースの世界は、様々な事情でかっての仲間が敵チームになったり、敵チームだった相手が味方になったり、選手たちの所属が頻繁に変わる世界のようです。
そして今年も、ツール・ド・フランスの時期がやって来ました。そこへ衝撃的なニュースがもたらされました。かってロードレースの世界に絶対的な王者として君臨しながらも、ドーピング検査に引っかかり、過去の栄光を全て剥奪されて自転車界から去ったはずのメネンコが、新たに作られたチームのエースとして復活するというのです。
さらに、かって日本ではチカのライバルであった伊庭が、今シーズンから海外を拠点として活動を開始したのです。その伊庭が所属するのが、あのメネンコのチームでした。久しぶりの再会を喜ぶチカでしたが、伊庭はメネンコからある依頼を受けていました。
チカと同じチームに所属するアントニオ・アルギという選手が、メネンコを憎んで命を狙っているというのです。メネンコからの依頼は、アルギが何かしようとしていないか見張って欲しいというのです。その見返りとしてメネンコは、もしチカが来シーズン以降、新たなチームと契約を結ぶことが難しかったら、それをバックアップしてくれるというのです。
メネンコの申し出を快くは思わなかったものの、レース中にトラブルが起きることを好まないチカは、メネンコの申し出を受けることにしたのでした。そしてチカは、ツールへと参加することになりました。何週間にもわたる過酷な戦いが、再び始まりました。
レースが進む中、チカはアルギと親しくなる機会を得ました。アルギの妹ヒルダは、日本に留学して日本語にも堪能でした。そしてチカは、かってメネンコとアルギの妹の間にあった陰惨な事件のことを知るのでした。そのことで、アルギは今もメネンコを恨んでいたのでした。
そんな中、チカはメネンコの目的について疑問を持ちました。それが物語の鍵となる部分で、ネタバレになるので詳しくは書きませんが、その謎が後半の物語を引っ張っていました。でも、その結末はちょっと不満だったかも。途中で伏線のように挿入されていた、ニコラが目撃した幽霊の話は、結局何だったんだろうという疑問も残りましたし・・・。(^^;
最終更新日 : 2022-10-30
著者:近藤史恵 欧州に渡って5年。来年は契約を勝ち取れるか、という心配を抱えながらもチームを渡り歩く白石誓。そんな彼が耳にしたのは、日本にいた頃のチームメイトであり、今年から欧州へと渡ってきた友人・伊庭のチームに、5年前、ドーピングでツールの世界を追われた元トップ選手メネンコが復帰する、というものだった。そして、その元王者から、チームメイトであるアルギが、自分におかしなことをし... …
2016/10/05 03:18 新・たこの感想文