
この巻では、ラインハルトとヤンの直接対決、そして帝国と同盟の長きにわたる戦いがついに終わります。
フェザーンを制圧したラインハルトは、フェザーン回廊を通り同盟領へと侵攻を開始します。フェザーン回廊という新たな通路を得たことで、ヤンの守るフェザーン回廊とイゼルローン要塞はその意義を失ったのでした。
そんなヤンの前には、ロイエンタールに率いられた艦隊が控えています。イゼルローン要塞に固執することは無意味だと認識していたヤンは、あっさりとイゼルローン要塞を放棄することを決めたのでした。とはいえ、彼らの前面にいるロイエンタール艦隊は、ヤン艦隊が目の前を通過していくのを黙認してくれることはありません。
こうしてヤンは、いかにしてイゼルローン要塞を放棄するかに知恵を絞ることになりました。ヤンの心中を察していたロイエンタールには、特に積極的にヤンと雌雄を決する意思はなく、それも幸いしてヤン艦隊は多数の民間人と共にイゼルローン要塞からの脱出に成功するのでした。・・・とはいえ、脱出にあたり何らかの罠を仕掛けていったようではありますが。また、フェザーン領から脱出してきたユリアンは、ここでようやくヤンと合流することができました。
一方、同盟の首都ハイネセンを目指す先鋒を任せられたのは、ミッターマイヤーでした。しかし、こちらには帝国からの戦線が長くなりすぎる不利がありました。かってラインハルトがアムリッツァの会戦で取った戦略を用いられれば、今度は帝国軍が大敗北を喫する恐れがあります。それに対するラインハルトの答えが、双頭の竜でした。これは全ての艦隊を縦横に展開して、ひとたび同盟が戦端をひらけば、各部が連携して同盟軍を包囲して、一気に決着をつける作戦でした。
同盟艦隊の指揮を執るのは、宇宙艦隊司令長官であるビュコック自身でした。老練なビュコックは、帝国軍に対して善戦しますが、やがて窮地に追い詰められました。それを救ったのは、イゼルローン要塞から脱し、急行したヤン艦隊でした。ヤンの登場で、戦いの流れは大きく変わっていくことになりました。
同盟領へと侵攻した帝国軍にとって、その広大さが敵となりました。さらにヤンは、ラインハルトに後継者がいないことをついて、帝国軍からラインハルトを除くことで、帝国軍を無力化しようと考えたのでした。そのためには、ヤンとラインハルトが直接対決する状況を作り出す必要があります。
そこでヤンは、帝国の補給線を狙った攻撃、ラインハルト麾下の艦隊を各個撃破するゲリラ作戦に出ました。ヤンの作戦に苦しめられた帝国軍は、ラインハルト自身を囮とする作戦をとらざるを得ないところまで追い詰められました。しかし、それはラインハルトにとっても望むところでした。尊敬すべき敵との戦いに、自らの手で決着をつける。常に軍の先頭に立って戦ってきたラインハルトにとって、それは避けては通れない道でした。
こうしてついに、ラインハルトとヤンが激突することになりました。強敵ヤン艦隊との戦いを前に、ラインハルトは極端な縦深陣と幾重にも重なる防衛網を用意しました。そのためヤン艦隊は、目の前の敵の壁を突破しても、さらに眼前に敵が現れる状況に置かれることになりました。しかし、ついにヤン艦隊はラインハルトの旗艦に迫ります。
そこへ駆けつけたのは、かってイゼルローン要塞で苦杯をなめたミュラーでした。ミュラーの鉄壁の防御に、ヤン艦隊も決定的なダメージを与えることができません。しかし、ラインハルトの運命は風前の灯火・・・と思われたその時、首都ハイネセンからの通信がヤン艦隊の動きを止めさせました。
ラインハルトの身を案じたヒルダの行動によって、ミッターマイヤーとロイエンタールの艦隊は本来の目的とは違う行動をとっていたのです。彼らは同盟の首都ハイネセンを落とすことにより、戦いを終結させたのでした。ヒルダは、ヤンには政治的な野心がないことを見抜いていたのでした。
こうして決定的な勝利を目前に、ヤン艦隊は停戦しました。そのおかげでラインハルトは生き延び、帝国の同盟への勝利が確定したのでした。しかし、誰もがこの停戦を受け入れられるものではないこともヤンは知っていました。そこで同盟の客将となっていたメルカッツをはじめとした一部の人々を、戦死したと報告することで帝国と同盟の双方から救ったのでした。
戦いが終わり、ヤンはラインハルトと直接対話する機会を持ちました。ラインハルトは、ヤンに自分の配下とならないかと誘いました。しかしヤンは、それをきっぱりと断りました。ラインハルトが象徴する専制国家よりも、腐敗してなお民主国家の意義をヤンが信じていたからです。
そしてヤンは、帝国の監視下に置かれつつも、ようやく告白した副官のフレデリカとの結婚生活に入りました。その邪魔をせぬようにと、ユリアンはフェザーンから脱出する時に知った地球教の実情を探る決意をするのでした。
1巻から続いた帝国と同盟の戦いが、ついに決着しました。とはいえ、帝国には同盟領までを完全統治するだけの余裕もなく、当面は同盟の体制を利用する状況が続きます。大きな戦いに勝利しても、その後にはそれによって得たものを有効に統治しなければならないのですから、支配者もたいへんですね。(^^;
最終更新日 : 2022-10-30