
この本には、12篇の短編が収録されていました。読み始めた最初は、その面白さが今ひとつわかりませんでした。何篇か読み進むうちに、ようやく人生における一瞬を切り取ったような内容の面白さがわかるようになりました。いろいろなタイプの作品が収録されていましたが、基本的な味わいは苦くて大人な感じでした。
どれも心に何かが残るような作品でしたが、12篇の中では「夜の外出」、「聖像」、「ダンス教師の音楽」の3篇が特に印象的でした。特に「ダンス教師の音楽」は、とあるお屋敷で下働きをしていた女性が、そこにダンスを教えに来た教師から音楽を聴かされて、その音楽が彼女の生涯の中で、常に心の中で鳴り響き続ける壮麗さが魅力的な作品でした。
海外での評価は高いトレヴァーですが、なぜか日本での邦訳はあまり多くありません。この本の他には、国書刊行会から発売されている短編集が2冊、彩流社から発売されているものが1冊、他にも発売されている本はあったのですが、絶版になっていて古本でしか手に入らないみたいで、なんだかものすごくもったいない気がします。洋書では「William Trevor: The Collected Stories」という、短編集7冊を1冊にまとめたというボリュームのある本が発売されているのですが、どこかの出版社がこれを邦訳して発売してくれないかなあ。
最終更新日 : 2022-10-30