
主人公の那波田空也(なわた・くうや)は、大手出版社に勤務する新人編集者です。学生時代から文学少年だった彼は、大学も文学部に進み、ようやくかねてからの希望通り編集者になることができました。ところが、編集部の移動で彼は、希望の文芸ではなく、なぜかボクシング雑誌の編集部へと回されてしまったのでした。空也はくさりながらも、ボクシング雑誌の編集者として仕事を続けます。そして、ボクシングの勉強のためにと、鉄槌ジムへと入会するのでした。
そこで空也は、立花というボクサーを知りました。彼は悪役キャラで売っているボクサーなのですが、その試合にはどこか引き込まれるものがありました。やがて空也は、立花のことを記事にしたいと考えるようになりました。そして、空也は立花の特集記事を書くことができました。ところが、その時に聞かされた立花の経歴は、実はジムがでっちあげたでたらめだということがわかるのでした。そして、この経歴詐称は、その後の立花に大きな問題となって立ちはだかるようになるのでした。
女性が書いたボクシング小説ということで、興味深く読みました。内容的な派手さはありませんが、試合の場面にも迫力があり、その一方でボクサーの堅実な日常もきちんと描かれていて面白かったです。
ただ1つ、気持ち悪いと思ったのが、主人公の空也が酔ったり興奮したりすると女性言葉になるという設定でした。作者自身が投影されたことで、主人公がこういうキャラになったのかもしれませんが、この設定のおかげで何度読書中に気持ちが萎えてしまったことか・・・。
優れた作品だけに、この1点だけがどうにも残念でした。
最終更新日 : 2022-10-30
文芸編集志望の若手社員・那波田空也が異動を命じられたのは"税金対策"部署と揶揄される「ザ・拳」編集部。 空也が編集長に命じられて足を踏み入れた「くさくてうるさい」ボクシングジム。 そこで見たのは、派手な人気もなく、金にも名誉にも遠い、死が常にそこに横たわる過酷なスポーツに打ち込む同世代のボクサーたちだった。 彼らが自らの拳でつかみ取ろうとするものはいったいなんなのか――。 直木賞... …
2014/10/03 13:19 粋な提案