
村上真介は、企業からの依頼でリストラを請け負う会社の社員です。本来ならばリストラは、会社の人事部門が中心となって行うのですが、さまざまな思惑で内部処理できない会社が真介たちの会社に依頼してくるのです。自分の言動1つで、ひょっとしたら1人の人間の人生さえ狂わせてしまうかもしれない緊張感を持ちつつ真介は仕事に向かっています。
この本には、そんな真介が担当した5つのケースが取り上げられています。最初のケースで出会った芹沢陽子は、気が強くて、年上で真介の好みの女性でした。それでも真介は、陽子に退職を勧める仕事をこなさなければなりません。結果的に、陽子は真介の恋人になるのですが、そうなっていく過程がユーモラスで笑えました。
この他には、おもちゃメーカーの開発部に勤務する男、合併した銀行で閑職に追いやられた旧友、自動車メーカーの広報コンパニオン、音楽会社のプロデューサー2人、などが登場します。どのお話もそれぞれに読み応えがあって面白かったです。
読みながら思ったのは、たかが仕事、されど仕事ということです。最底辺の動機で考えたら、働くのは生活費を稼ぐためです。しかし、誰もがただ生きるために働いているだけではありません。働く前から、あるいは働くうちにそれぞれの仕事にやりがいや誇りを見出しています。それなのに、会社という組織は時に冷酷に、そんな人間にもあなたは不要だと突きつけてきます。これは会社に尽くしていればいるほど、自分という人間を否定されることなのだと思いました。
真介の扱った人間の中には、リストラ勧告を受けて涙をのんだ人間も数多くいたようです。それでも、この本に収録されている限りでは、重たさよりも救いが感じられたのがよかったです。
最終更新日 : 2022-10-30