
全く興味がない作家さんであり、作品だったのですが、映画化されたと聞いて何となく読んでみました。
この本には2つの短編が収録されています。どちらも主人公は北町貫多ですが、1つ目の「苦役列車」は貫多が中卒で日雇いの港湾労働者をしていた頃の物語、もう1つの「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」は、40代になって作家になっている貫多の様子が描かれています。この貫多という登場人物は、作者と重なる部分が多いそうなので、自伝的な作品みたいです。
「苦役列車」の貫多は、まだ10代の若者です。しかし、父親が性犯罪者だったために、母親と逃げるようにそれまで住んでいた街から離れたことから、彼の運命は大きく変わってしまいました。心を閉ざして荒れた生活をしていた貫多は、中学を卒業すると母親の稼いだ金を持ち逃げして、1人で暮らし始めてしまったのでした。
しかし、中卒の貫多にできる仕事は限られていて、日雇いでその日生きるお金を稼ぐことがやっとです。それに加えて、自堕落な生活を送っている貫多は、日雇いさえも毎日せず、お金がなくなって追い詰められて初めて働き始める始末です。
友人も誰1人としていない貫多でしたが、日雇い仕事に通ううちに専門学生の日下部という知り合いができました。日下部は仕送りだけでは生活していけなくて日雇い仕事をするうちに、そこに通いつめるようになった若者でした。最初は日下部と打ち解けられなかった貫多でしたが、日下部の人なつっこい性格もあって、次第に仲良くなりました。しかし、日下部に女子大生の恋人がいるとわかったあたりから、貫多は自らのプライドの高さに悩まされるようになり、結局日下部ともつきあいが遠のいてしまうのでした。
もう1つの物語では、貫多は作家になっています。しかし売れっ子作家というわけではなく、出版社に原稿を持ち込んで、時折それが雑誌に掲載されることもあるという不安定な身分です。それに加えて、その時彼はぎっくり腰を患っていたのでした。そんな情けない中年の、それでも文学賞の候補になっての期待と、世俗的な名声を求める自らの浅ましさを嘆いたりとが交錯するのでした。
文章はかなり拙い感じで読みにくかったですが、作者自身の体験を綴った物語は妙な説得力と吸引力がありました。若いときから主人公=作者は、かなりどうしようもない人なのですが、それもここまで徹底すると不思議な魅力が感じられました。
最終更新日 : 2022-10-30