
プルーストのこの大作は、以前ちくま文庫で発売されているものに挑戦したことがあったのですが、訳文がなじめず挫折してしまいました。その後もずっとこの作品のことが気になっていたのですが、集英社文庫に別の訳があることを知ってずっと迷ってきました。
そんな時、最近になって光文社文庫と岩波文庫で「失われた時を求めて」の新訳が発売され始めました。どちらも、これまでの訳と比べると読みやすくなっているということで、どちらを読もうか迷いましたが、書店でざっと読んだ時に自分の好みにあっていそうな岩波文庫版に手を出すことにしました。
全14巻として刊行の予定で、現在まだ2巻までしか発売されていません。半年に1冊の割合で発売されるらしいので、すべてが刊行されるまでに7年もかかる計算になります。ずいぶん遠大な気がしますが、それくらいのペースで刊行されるのであれば、最後まで読み通すことができるかもしれません。(^^;
この第1巻では、主人公である"私"が幼年時代を過ごしたコンブレーでの生活を回想します。最初は夢うつつの中で思い出したのは、来客があるとお母さんがお休みのキスをしてくれないという悲しい思い出でした。しかし、紅茶に浸したマドレーヌを食べたことが契機となって、"私"はコンブレーでの生活の詳細を思い起こすことになるのでした。
とはいえ、単純に過去が順番に語られるわけではなく、突然時代を飛び越えたエピソードが飛び込んできたりして、自由自在に時の中を動き回ります。最初の記憶喚起のきっかけがマドレーヌだったためか、随所に花の香りや家の匂い、詳細なコンブレーの自然描写と読者の感覚に訴えかける描写が続くのが印象的でした。
上流階級の生活を、繊細で精緻な視点で描いているこの作品が、いったいどこへ向かいどこへ着地するのか、とても楽しみです。
最終更新日 : 2022-10-30