
トマス・ピンチョンの名前と作品は以前から知っていたのですが、難解というイメージが強くてこれまで手が出ませんでした。でも、池澤夏樹さんの世界文学全集の中にその作品の1つが収録されていると知って、挑戦してみることにしました。
この作品はピンチョンの作品としては取っつきやすい方らしいですが、最初はその奇妙な展開に振り回されました。
最初に登場したゾイド視点で読んでいけばいいのかと思いきや、突然物語の視点は彼の娘のプレーリィに変わったり、ゾイドの元妻でプレーリィの母親フレネシに変わったり、かと思えばフレネシの両親の過去に飛んだりと、自由奔放に飛び回ります。
おまけに途中から、日本で怪しげな忍術の修行をしたDLという女性まで登場します。彼女は修行のおかげで、自分の望む年数で相手を殺すことができる技まで使うことができます。このあたりの展開は、なんだか怪しげなカンフー映画を観ているみたいでした。(^^;
それに戸惑いながらも読み進めると、1960年代そして1980年代のアメリカの国家権力の恐ろしさが浮かび上がってきました。とはいえ、真っ正面からそれが語られるのではなく、ギャグや卑猥な展開、過去にアメリカで放映された数々のテレビ番組を引き合いに出しながら、混沌の中にそれが見えてくる感じです。
作品中でたびたびヤクが使われるのですが、あまりにサイケデリックなその内容は、読んでいて自分自身がドラッグに犯されてしまったかのような気分になりました。本を読んで、こんな体験ができるのは驚きでした。
ということで初ピンチョンだったわけですが、読み終わった感想は難解だけれど面白かったです。ちょうど新潮社からピンチョンの全集が刊行されているらしいのですが、そちらにも手を出してみたくなりました。
最終更新日 : 2022-10-30