
物語の主人公となるのは、画家のポール・ゴーギャンとその祖母フローラ・トリスタンです。この2人の最晩年の活動から死までを描きつつ、その中に回想という形でそれぞれの過去が物語られるという、ちょっと込み入った構成の物語です。しかし、2人の劇的な生涯の面白さもあり、最後まで退屈することなく読み終えることができました。
フローラ・トリスタンの目指す"楽園"は、労働組合による労働者の解放と、家庭の奴隷となっている女性の解放です。彼女は自分の考えを理解してもらうために、本を出版して世界各地でその思想を実現させるために講演や話し合いを行っていたのでした。彼女は最後の最後まで全力を尽くしますが、ついにその理想が達成されるのを見ることなく亡くなりました。
ポール・ゴーギャンは、西洋芸術からの解放者でした。彼は西欧での芸術のあり方に限界を感じて、タヒチの強烈な色彩と現地人の生き方に深く共鳴して、それらを素材とした作品を数多く生み出すのでした。そんな彼は、タヒチにも忍び寄っている西欧化の波とことごとく衝突します。そんな中で追い込まれながらも、ポールもまた自分の"楽園"を追及し続けたのでした。
この作品は、2人の生涯の面白さもありますが、それを語る作者が全知の神のごとき存在として、作中にしばしば顔を出す語り口も独特でよかったです。そこに作者が登場人物を見守っているかのような、優しい視線を感じることができました。
最終更新日 : 2022-10-30