
これまで様々な謎を扱ってきた円紫シリーズですが、人が死ぬお話はありませんでした。シリーズ初の長編のこの作品では、"私"の知っている知り合いの死が初めて描かれました。
「夜の蟬」にもちらっと登場した2人の女子高生、津田真理子と和泉利恵。2人は幼い頃からの親友でした。しかし、ある日"私"は、その1人津田真理子が文化祭の準備中に、学校の屋上から転落して死んだことを知ったのでした。
津田さんの死は、事故だったのか自殺だったのか。そして、1人残されて抜け殻のようになってしまった和泉さん。そんな2人の高校の先輩でもあり、2人と同じく生徒会の役員をしていた"私"は、ふとした出来事をきっかけに事件に深く関わることになるのでした。
きっかけは、"私"の家のポストに投函されていた1通のコピーでした。それは、なんと死んだ津田さんが使っていた政経の教科書のコピーだったのでした。しかし、津田さんが持っていたその教科書は、津田さんのお葬式の時に故人の亡骸と一緒に埋葬されたはずでした。そのコピーがなぜここにあるのか!?
ごく当たり前の日常を過ごしつつ、事件と関わった"私"は、とうとうその謎を円紫さんに相談することになりました。そして円紫さんは、この謎を例によって鮮やかに解いてみせたのでした。
お話の結末は暗いですが、そのラストは余韻があり、読者に深く考えさせる結末だったと思います。
読んでいる途中ではっとさせられたのは、雨に濡れた利恵を"私"が助けた場面でした。そこで利恵は、淡々と真理子との思い出を語るのですが、そこに親友を失った利恵の凄まじい悲しみが感じられました。
他のシリーズと同じく、文体にも味わいがあり、推理小説というよりは文学作品に近い雰囲気が感じられる作品だと思います。とはいえ、あまり堅苦しさはありませんので、未読の方にはぜひ一読していただきたい作品です。
最終更新日 : 2022-10-30
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2009/11/16 18:14 新・たこの感想文