
下巻では、上巻よりも抽象的な内容になっていきました。そして、これまで自分が生きてきた人生は何だったのかと内省させられました。作品は物語としては完結したものの、その中で示された謎に対する答えは何一つ示されませんでした。しかし、不思議なくらい読み終わった後に、言葉にはできない何かが残る作品でした。
お話としては、中盤はカフカ少年の物語よりも、星野さんと合流してからのナカタさんの旅が面白かったです。ナカタさんたちとカフカ少年がどこかで出会うのかと思ったのですが、進路は一瞬交錯しましたが、結局2人が出会うことはありませんでした。
それぞれがそれぞれに、ただ自分の道を歩いてゆくだけ。そんな割り切りが、とてもこの作品らしいと思いました。
この作品を読んでいる間、登場人物たちの運命と共に、自分の運命についてもいろいろと考えさせられました。学生から社会人になり、必死に仕事をして何ものかを見つけ出そうとしてきましたが、自分の努力とは反対に、私自身の中には何も残らなかったのではないかと思いました。
現在、心の病を抱え、社会から一歩離れた場所にいて、自分には何もないことを痛感させられます。いくらかの貯金と経験は残りましたが、結局私自身の中には何も満たされていないのではないか!?、そんな不安があります。
こんな私が、この作品に出会えたのは幸運なことだったと思います。この作品に出会わなければ、私は自分自身が空っぽだったことに気がつくことさえなかったかもしれませんので。
最終更新日 : 2022-10-30