バルガス=リョサさんの「チボの狂宴」を読み終えました。
この作品はトゥルヒーリョによる独裁が行われていた時代の、ドミニカ共和国の物語です。著者の他の作品と同じように、独裁者トゥルヒーリョ、彼を暗殺しようとする者たち、トゥルヒーリョの独裁が終わり35年ぶりに祖国を訪れたウラニアという女性など、複数の視点から物語が描かれます。
読んでいる時は、すべて史実に基づいた作品なのかと思いましたが、巻末の訳者解説でウラニアや上院議員でトゥルヒーリョの腹心の部下だった彼女の父などは、著者の創作した人物だと知って驚きました。
登場人物の中で、強烈な印象を残したのは、独裁者のトゥルヒーリョです。アメリカの海兵隊で教育を受け、規律正しい生活を行い、それを周囲の者たちにも強要しています。そんな厳格さの一方で、部下の妻を慰み者にしたり、目をつけた女性に関係を強要する下劣で非情な一面もあります。
また部下の忠誠心を試したり、特定の腹心をわざと遠ざけたり、周囲を翻弄する暴君ぶりもみせます。そのせいで、彼の部下たちは、常に彼の様子を卑屈にうかがっています。
トゥルヒーリョの独裁を阻止するため、側近や恨みを持つ者たちが暗殺を謀ります。暗殺は成功しますが、その後の状況は暗殺者たちが望んだものにはなりませんでした。
トゥルヒーリョ以外では、ウラニアの存在が心に残りました。彼女はトゥルヒーリョの独裁の終了間近に、アメリカに留学して、それからは祖国に戻ることなく仕事一筋の生き方をしてきました。35年ぶりに祖国に帰った彼女は、介護が必要になった父の元を訪れます。そして親戚の叔母に、なぜ彼女が国に帰らなかったのかを打ち明けます。
ウラニアは架空の存在ですが、彼女の受けた痛みは独裁時代の暴虐にさらされた者たち全ての痛みを代弁しているように思えました。
最終更新日 : 2022-10-30