この著者の本を読むのは初めてでしたが、お気に入りの作家の1人・ジュンパ・ラヒリさんが惚れ込んで英訳したとカバーにあったので、なんとなく読んでみることにしました。
物語は3つの書がなっています。1つめは、恋人を作り家に帰られない夫に向けた、妻からの批難の手紙です。2つめは、寄りを戻した夫婦が老後を迎え、ヴァカンスに出かけた間に家を荒らされ、飼い猫も行方不明になってしまいます。その片付けをしながら夫が妻の昔の手紙を見つけて、夫の視点から過去が回想されます。3つめは、夫婦の息子と娘がヴァカンス中の両親の家を訪れて、対話をするお話です。
正直、この物語を読んでいる間、あまりいい気分ではありませんでした。論理で徹底的に相手を追い詰める妻、身勝手な理由で妻や子供を捨てながらも再び身勝手な理由で寄りを戻した夫。伯母からの遺産をめぐり対立している、息子と娘。どの登場人物も身勝手で傷ついていて好きになれなかったからです。
しかし、不思議なことに読むのをやめることができませんでした。この物語で描かれている家族ほど極端ではないにしろ、どの家族にもある対立や不満、怒り、悲しみなどが凝縮されている気がしたからかもしれません。そして最後まで読み終えた後の読後感は、不快なものではなく、すっきりとしたものでした。最終的に、事件の結末も明らかになり、ちょっとしたミステリーとしても楽しめたのもよかったです。
書き方によっては、もっと重い内容になったでしょうが、耐えられないほどの重さや暗さではないバランス感が絶妙だったと思います。この感じはどこかでと思ったら、ジュンパ・ラヒリさんの作品にも通じるものだと気づきました。
最終更新日 : 2022-10-30