この作品は、フィレンツェにいる現在の著者とペルーに在住していた当時の著者、そしてインディオの神話のような物語の3つで構成されています。物語は、著者がフィレンツェで密林の語り部の写真を見つけたところから始まります。
ペルーに在住していた当時、著者にはサウル・スラータスというユダヤ人の友人がいました。彼は顔の半分に痣がありましたが、気さくで人当たりのよい人物でした。サウルは密林に暮らす人々の生活に強く惹かれていました。その当時から、密林の部族の言語や生活の研究。便利な道具や宗教の普及が進められていました。
しかし、サウルはそれは間違っていると主張します。彼らの世界は彼らの中で完成されたもので、外部からの干渉は彼らにとって害でしかないというのです。その後、著者はペルーを離れて、サウルとも疎遠になってしまいます。
その物語とはいっけん無関係そうに、インディオの神話らしいエピソードが語られていきます。どのように世界が創造されたと考えているのか、そして彼らが定住せず密林を放浪するように生活している理由などが、そこから読み取れます。
正直に言って、最初はこの神話のようなエピソードはあまり面白いと思えませんでした。しかし、そこにサウルらしき姿が現れてきた時、物語が1つにつながり面白くなってきました。そして、サウルが文明社会を捨てて、なぜ密林で語り部となったのかが次第に明らかになっていきます。
この本でのもう1つのお楽しみは、先に読んだ著者の「緑の家」に登場した人物のエピソードが、この本の中にも盛り込まれていることでした。
物語自体は淡々と進んでいきますが、読み終えた後に自分たちの価値観が絶対なものなのかという疑問、密林を放浪する部族とユダヤ人との連想、自然と共存した生き方など、さまざまなことを考えさせられる作品でした。
最終更新日 : 2022-10-30