
物語の舞台となるのは、紀元前の中国。主人公は「論語」で有名な孔子と、その弟子・顔回みたいです。物語が始まった時、孔子はすでに五十歳を迎えていました。ようやく魯の官吏になった孔子は、魯の中での勢力を拡大しようとしてます。
孔子には多くの弟子がいましたが、その1人・顔回はちょっと不思議な青年でした。陋巷と呼ばれるスラムのようなところに住みながらも、不思議と品の良さを感じさせるところがあります。そんな顔回に惚れてしまったのは、同じ陋巷に住んでいる妤(よ)という女の子です。
陋巷での顔回は、日々何をするでもなく暮らしていました。彼の父・顔路は、葬礼の儀式を取り仕切ることで、何とか生活を立てています。顔回、そして孔子も、顔一族という巫術を操る集団でした。今ではこういった儀式は、怪しげなもののようですが、はるか昔のこの時代その術は間違いなく人々のすぐ側にあったのでした。
そんな顔一族の鬼子と呼ばれたのが、孔子でした。孔子はそれまで巫術として存在したものを、1つに体系化して国を治める元としようとしていたのです。孔子自身も強力な巫術の使い手ですが、それ以上に生まれた時から才を認められていたのが顔回でした。
普段は陋巷でふらふらと暮らしている顔回ですが、時に孔子を助けるために彼の敵と戦うこともあります。とはいえ、顔回は武術で戦うのではなく、巫術を使って敵となる術者と戦います。孔子が斉に招かれて、君主と共に夾谷に赴いた時、斉は彦(げん)一族の呪術を使い、孔子を亡き者にしようとしていたのです。
その背後にいる黒幕は、斉の重鎮である晏嬰(あんえい)でした。晏嬰は高齢でしたが、孔子が勢力を伸ばしている背後には巫儒の力があるとみて、彼を危険な存在だと考えていたのです。しかし、そんな晏嬰の目論見は、孔子自身の力と、顔回の力で消えました。
孔子は、かねてより晏嬰のことを尊敬していました。それ故に、晏嬰が自分の狙うのは、何か誤解があったからだと考えます。そして孔子の代理として、顔回が晏嬰の元を訪れることになるのでした。顔回が晏嬰のところに着いた時、晏嬰は死を目前に控えていました。しかし晏嬰は顔回と話をして、儒を危険なものだと考えていることを聞かせてくれました。
物語は中盤から過去に遡り、魯の国で起きている権力争い、孔子と顔回の過去が語られます。魯は、三桓氏と呼ばれる一族が国を支配してきました。当然、孔子もその独占体制を崩そうとしているのですが、彼に先立って陽虎という男が行動を起こしました。陽虎は、南方の巫術者を使い、自分の地位を固めようとしています。
そこに送り込まれてきたのが、孔子の元に弟子入りするためにやって来た顔回でした。顔回が行った行動によって、陽虎は罠に落ちようとしています。その顛末が語られるのは、次巻以降になるようです。
巫術が超能力的なものとして描かれていて、なかなか面白かったです。本の表紙が諸星大二郎さんというのも、作品の妖しげな雰囲気と合っていて良かったです。(^^)
最終更新日 : 2017-08-09